ごあいさつ
「スカパンの悪巧み」演出にあたって
仲谷一志
モリエール原作の古典劇「スカパンの悪巧み」を甘棠館主催で公演することになり、僕が演出を担当します。
18歳の頃、「博多こもんど4・22」という小劇場で、その後、僕が演劇活動を始めたテアトルハカタの公演で初めて観たのが、「スカパンの悪巧み」でした。その時スカパンは、若くして亡くなった「志水正義さん」という先輩が演じていました。志水さんは、その後東京に活動の場を移し「相棒」とか「秘密のケンミンSHOW」の方言を見抜く謎のマスター等で活躍した方です。とにかく、スピーディーな台詞回しが印象的的で、芝居の「し」の字も知らなかった当時の僕にも、この作品はとんでもなく面白いことは、わかりました。
いつか自分も、あんな芝居がしたいと思うようになりました。
その10年後、僕は「劇団ショーマンシップ」を旗揚げして、何作品目かに「スカパンの悪巧み」を上演し僕が「スカパン」を演じました。
僕の演技は凡庸でしたが、作品は小劇場の魅力を存分に発揮出来、新聞にもいい劇評が載った事を記憶してます。
そして25年ぐらい時を経て、昨年、北九州芸術劇場で串田和美さんの「スカパン」を観ました。
何より高名な演出家で、80歳の串田さんが、スカパンを演じている事に驚きと刺激を頂きました。
もう、帰りの新幹線のなかで、「スカパンの悪巧み」の上演の企画が僕の頭の中で組み立てられていました。
もちろん、スカパンは、僕です。
早速、事務所に戻って企画書を書き始めた時に、違うキャスティングイメージが僕の中で生まれ、そのイメージはドンドン大きくなっていきました。
そして、もう一つ、「この企画は劇団ではなく劇場として甘棠館Show劇場でプロデュースしたらどうなるだろう」と考えました。これから甘棠館が制作機能を持って福岡の演劇シーンをもっと盛り上げる事は出来ないかと考えていたからです。
そして、僕は一本の電話をかけました。
「あっカミケン?甘棠館で「スカパンの悪巧み」という古典劇をやるつもりなんだけど、その芝居の主役の「スカパン」をやってくれない。」
「上条拳斗」という若い役者とは、回遊劇「ハラペコ赤ずきんの森」で一緒に仕事をして以来、気になる存在でした。
「気になる」という引っかかり方は、いつも自分の中では大切にしてきました。
この電話を皮切りに、次々に僕の「気になる役者」に連絡をしました。一人一人に僕の思いを伝えて出演をお願いしました。
今、僕が気になる役者が甘棠館に集まって古典劇に挑戦してくれます。
劇団の座長を務めている僕が、違うプロジェクトで動く事で生まれるかもしれない誤解は、少し危惧しましたが、今のところ、それを感じることはなく、劇団の役者の古澤が制作を担当してくれ、山口が演出助手をしてくれる事になりました。脚色、舞台は僕の初演の演出をした市岡洋です。
音楽は、僕の一人芝居を含めると30年を超える付き合いの山浦洋志です。
妻が記録をすると言って台本を読んでくれていました。
そして衣装は、もはや福岡の演劇界ではひっぱりだこのフルタニチエコさんです。
僕は、この芝居を「あの頃」の僕のように観てくれるお客様が生まれる事を期待して演出します。